1. はじめに
イタンジ株式会社の藤崎です。現在は、物件データ基盤の開発を担当しています。
今回は、弊社のとあるRailsプロダクトで使用するために作った「MySQLのALTER TABLE
を監視するgem」を紹介しようと思います。
※ MySQL/MariaDBでのみ使用できます
- RubyGems: https://rubygems.org/gems/mysql_alter_monitoring
- ソースコード: https://github.com/akito-fujisaki/mysql_alter_monitoring
2. 背景
弊社では、「リアルタイム」不動産業者間サイト ITANDI BB や 不動産賃貸仲介業向けの顧客管理システム nomad cloud といった、 不動産取引をなめらかにするためのサービスを数多く提供しています。
そしてその裏側には、お客様から提供いただいた大量の物件データを取り扱う、基盤となるプロダクトが存在します。
これは Ruby on Rails 7.0 (DBは Aurora MySQL 8.0) を利用したAPIサーバとして運用しており、私達のチームが開発・保守・運用を行っています。
しかし、レコード数が数千万のテーブルに対する「スキーマ変更(ALTER TABLE
)」を伴う開発が必要な場合、その実行には30分近くかかることが多く、実行時間の見積もりが経験則になりがちでした。
これが心理的な負担となっていたため、スキーマ変更(ALTER TABLE
)の進捗を知る術が必要でした。
パフォーマンススキーマを利用する
調査を進める中で、MySQLのドキュメントの パフォーマンススキーマを使用した InnoDB テーブルの ALTER TABLE の進行状況のモニタリング に記載された方法に行き着きました。
これは、MySQLサーバの様々な処理の実行を監視するための「パフォーマンススキーマ」と呼ばれるテーブルを使うことで、ALTER TABLE
の進行状況を監視することができる、というものです。
まさに求めていた機能!ということで、しばらくこのプロダクト内に簡易的なスクリプトを用意して使っていました。
ということで前置きが長くなりましたが、今回紹介するものは、このスクリプトをgem化したものになります。
3. 使い方
3.1. インストール
mysql2 に依存していますので、 libmysqlclient 等のMySQLクライアントツールをインストールしてください。
その後、gemをお好きなようにインストールしてください。
3.2 設定の有効化
パフォーマンススキーマを使用してALTER TABLE
をモニタリングするためには、MySQLサーバの設定を有効にする必要があります。
そのためのコマンドを用意してありますので、下記の通りURLで指定するか、hostやportを個別に指定して実行してください。
※ URLの形式はmysql2://<user>:<password>@<host>:<port>
で、RailsでDBのURLを指定する際と同じものを使用できます
# URLで指定する場合 $ mysql-alter-monitoring enable --url mysql2://root:pass@localhost:3306 # hostやportを個別に指定する場合 $ mysql-alter-monitoring enable --host localhost --port 3306 --user root --password pass
なお、AWSのRDSやAuroraを使用しておりパラメータグループで制御したい場合は、公式ドキュメント等を参考に各自で設定していただけますと幸いです。
3.3 ALTER TABLE を実行
時間のかかるALTER TABLE
(インデックス追加など)を実行してください。
検証の場合、レコード数が100万件ほどのテーブルに対してインデックス追加を行うのが良いかと思います。
※ MySQLサーバが動作するマシンスペックによりますが、レコード数が100万件を超えたあたりから目に見えて遅くなり始める印象です
3.4 監視の実行
下記のコマンドで、監視を始めます。
# ALTERが終わるまで実行 $ mysql-alter-monitoring run --url mysql2://root:pass@localhost:3306 # ずっと実行 $ mysql-alter-monitoring run-forever --url mysql2://root:pass@localhost:3306
進行状況が下記のようなjson形式のログで出力されます。
{"progress":"46.354(%)","raw":{"THREAD_ID":526,"EVENT_ID":4,"END_EVENT_ID":null,"EVENT_NAME":"stage/innodb/alter table (merge sort)","SOURCE":"ut0stage.h:448","TIMER_START":496275975246251000,"TIMER_END":496276038311459000,"TIMER_WAIT":63065208000,"WORK_COMPLETED":10761,"WORK_ESTIMATED":23215,"NESTING_EVENT_ID":1,"NESTING_EVENT_TYPE":"STATEMENT"},"level":"INFO","timestamp":"2023-02-18 01:36:02 +0000"} {"progress":"49.046(%)","raw":{"THREAD_ID":526,"EVENT_ID":4,"END_EVENT_ID":null,"EVENT_NAME":"stage/innodb/alter table (merge sort)","SOURCE":"ut0stage.h:448","TIMER_START":496275975246251000,"TIMER_END":496276139346459000,"TIMER_WAIT":164100208000,"WORK_COMPLETED":11386,"WORK_ESTIMATED":23215,"NESTING_EVENT_ID":1,"NESTING_EVENT_TYPE":"STATEMENT"},"level":"INFO","timestamp":"2023-02-18 01:36:03 +0000"} ... {"message":"Event is empty","level":"INFO","timestamp":"2023-02-18 01:36:07 +0000"} {"message":"Finish monitoring","level":"INFO","timestamp":"2023-02-18 01:36:08 +0000"}
パフォーマンススキーマから返ってくるレコードは下記のような値で、raw
に含まれています。
{ "THREAD_ID":526, "EVENT_ID":4, "END_EVENT_ID":null, "EVENT_NAME":"stage/innodb/alter table (merge sort)", "SOURCE":"ut0stage.h:448", "TIMER_START":496275975246251000, "TIMER_END":496276038311459000, "TIMER_WAIT":63065208000, "WORK_COMPLETED":10761, "WORK_ESTIMATED":23215, "NESTING_EVENT_ID":1, "NESTING_EVENT_TYPE":"STATEMENT" }
個々の値は詳説しませんが、重要なのはWORK_COMPLETED(完了作業数)
とWORK_ESTIMATED(全体の見込み作業数)
で、これらの値をもとにprogress(進捗率)
を出力します。
4. 所感
使い方は以上となります。ここからはgemを作った際の所感になりますので、読み飛ばしていただいても構いません。
実はgemの作成自体は今回が初めてだったのですが、bundlerが必要なものをすべて用意してくれているため、そこまで苦労することなく開発することができました。
gemの仕組みそのものへの理解度が向上したことで、gemの作成やOSSのコントリビュートへの敷居がかなり下がったように感じています。
また、モニタリングの仕組み自体は難しくないのですが、動作確認・テストが少し大変でした。
動作確認にはALTER TABLE
にある程度の時間がかかるテーブルを用意する必要がありますが、手動で用意するは大変です。
そのため自動テストで正しく動くことを確認しているのですが、下記のような悩みポイントがありました。
① テストの実行前後でDBのセットアップ・ロールバックを行う仕組みをどうするか
② パフォーマンススキーマから返ってくる値が毎回異なる
① テストの実行前後でDBのセットアップ・ロールバックを行う仕組み
gemを入れても良かったのですが、なるべくシンプルに作りたかったこともあり、自前で用意しました。 ただし、並列化のことなどは考えずに作っています。
Rails環境下でテストを書く場合、このあたりはよしなにやってくれている部分なので、改めてありがたみを感じました。
② パフォーマンススキーマから返ってくる値が毎回異なる
基本的にはモックしているのですが、想定しているユースケースを実際に再現したテストも行いたいと考え、モックしないテストも用意しました。
この時、モニタリング時に吐き出されるログの厳密なテストは諦め、ログをファイルに書き出す仕組みを用意し、目視で確認する方法で妥協しています。
5. まとめ
今回は「MySQLのALTER TABLE
を監視するgem」について紹介しました。
時間のかかる「スキーマ変更(ALTER TABLE
)」の進捗を監視することができるようになり、心理的負担を軽減することに成功しました。