自作キーボード始めてみませんか?

はじめに

イタンジ株式会社の峯岸です。 現在、「申込受付くん」という賃貸物件への申込みをWEBで完結させるサービスを開発しています。 イタンジエンジニアとして、本当は有益な技術記事を書きたかったのですが、今回は僕の趣味の一つでもある「自作キーボード」の魅力について語りたいと思います。 幸い、イタンジには優秀なエンジニアがたくさんいるので、技術的なお話は他の皆にお任せすると致しましょう・・・(小声)

キーボードはインターフェイス

アメリカ西部のカウボーイたちは、馬が死ぬと馬はそこに残していくが、どんなに砂漠を歩こうとも、鞍は自分で担いで往く。 馬は消耗品であり、鞍は自分の体に馴染んだインタフェースだからだ。 いまやパソコンは消耗品であり、キーボードは大切な、生涯使えるインタフェースであることを忘れてはいけない。

超有名キーボードブランド「HHKB」の生みの親と言われている東京大学名誉教授 和田英一先生の言葉です。

インターフェイスとは、人間がコンピューターに信号を送るための「境界面」を意味します。

PCゲームをする方であれば、アクチュエーションポイント(キーボードのキーを、どれだけ深く押したらキーボードが反応するのかという数値)や押下圧(キーを押したときに反発する力)が重要になってくるかもしれませんし、ライターの方であれば、打鍵感(キーの打ち心地)や音にこだわることで仕事のパフォーマンスが変わってくるかもしれません。

キーボードは使えればなんでもいいやって思う方もいるかもしれませんが、少しこだわることで、仕事のパフォーマンスが上がるって言われたらどうでしょう。 少し興味が出てきませんか?

自作キーボードの魅力

キーボードは人間とコンピューターを繋ぐインターフェイスということはお伝えしましたが、今回は一歩踏み込んで自作キーボードについてお話したいと思います。

自作キーボードのことを全く知らない、もしくは興味がない人のために自作キーボードの魅力を一言で言うならば、超実用的なプラモデルです。 プラモデルの場合、作って達成感、飾って眺めることで満足感、が得られるかと思いますが、キーボードの場合、なんと、使うことができるのです(真顔)。

自作キーボードは作るメリットと使うメリットがあるので、それぞれ説明していきます。

自作キーボードを作るメリット

  • 自分で作ることで、不具合箇所の把握や部品の交換が容易になり、結果的に長く使うことが可能。
  • 打鍵感や、音、見た目など好きなようにカスタマイズができる。
  • 製作中は『無心』の状態になるので、瞑想状態に近い体験を得ることができる。

キーボードの構造は実はシンプルなので壊れることはそこまで多くないのですが、仮に接触不良で何処かのキーだけ反応しなくなった場合は部分的な交換も可能です。 部分的な部品の交換が可能ということは、自分好みに色々とカスタマイズすることができるということでもあります。 例えば、押下圧の軽いキースイッチに交換して高速タイピング仕様にしてみたり、無線化してみたり、可愛い猫の肉球のキーキャップにしてみたり。。。 カスタマイズの選択肢は無限です。

また、キーボードを作るときはひたすら同じ作業を繰り返すことも多いのですが、脳をほとんど使わずに手だけを動かすので、脳がリセットされてリフレッシュできます。 以前、ミャンマー近くの寺院で瞑想修行をしたことがあるのですが、瞑想で禅定の段階に入る感覚に近いものがあります。 人にもよるとは思いますが、細かい作業が好きな人は結構ハマると思います。

自作キーボードを使うメリット

  • キーレイアウトを選択できる。
  • キーマップを自由に設定できる。
  • 肩こりや腱鞘炎を軽減できる。

キーの並び方のことをキーレイアウトと言います。 一般的なキーボードは、一列に並んだキーが一段下がるたびに横にずれる方式を採用しているかと思います。 これをQWERTY配列のロウスタッカードと言います。(覚えなくても大丈夫です)

しかし、このQWERTY配列と横にずれるキーレイアウトは昔のタイプライター時代の名残で今も使われているだけで、打ちやすさなどを考慮して設計されたわけではありません。

試しに、手のひらを閉じたり、開いたりを繰り返してみてください。 指の動きは手のひらの中心から外側に向かって直線的な動きになりませんか? つまり、指の動かし方的に言えば、横ずれではなくて縦ずれの方が、指の動かし方的には理に適っているのです。 縦ずれのレイアウトのことをカラムスタッガードと言います。(覚えなくても大丈夫です)

実際、自作キーボードの多くではキーレイアウトが横ずれではなくて、縦ずれになっています。 実際に見た方が早いと思うので、僕が持っているキーボードで見てみようと思います。

一般的な横ずれのキーレイアウトと、下の縦ずれのキーレイアウトのキーの並びを見比べてみてください。 一般的なキーレイアウトでは「Q」「W」「E」「R」「T」のキーは横に揃って並んでいて、下の段(「A」「S」「D」「F」「G」)に行くに従って右にずれていると思います。

一方、縦ずれでは、「Q」「A」「Z」の縦の列が揃っていて、右の「W」「S」「X」の列にいくと少し上がっていると思います。

これが横ずれと縦ずれの違いです。 ちなみに、縦ずれのずれ方は、指の長さの違いに合わせていることが多いです。「Q」「A」「Z」「W」「S」「X」とで上にずれているのは小指より薬指の方が長い人が多いからです。

実際にこの縦ずれのレイアウトのキーでタイピングしてみると、ミスタッチの少なさと指の動かし方の違和感の無さに驚くと思います。 こういった市販では販売されないキーレイアウトを選べるのも自作キーボードのメリットです。 ちなみに、縦ずれのレイアウトが理に適っているにも関わらず、横ずれのキーボードが世間に出回っている理由や、QWERTY配列が主流になっている理由はタイプライターの歴史から遡る必要があるので、興味がある方はぜひ調べてみてください。

自作キーボードの利用するメリットの二つ目が、キーマップ変更の自由度です。 キーマップというのは、どのキーを押したらどのキーと認識するかという規則表みたいなものです。

例えば、細長いスペースキーよりcommandボタンの方がよく使うから、スペースキーにcommandを割り当てて、commandの部分にスペースキーを割り当てよう、とか。 caps lockボタンを長押している時は、shiftみたいに別のキーを呼び出すようにして、「J」「K」「L」「;」を押したら、「←」「↑」「↓」「→」にしよう、とか。 腱鞘炎で小指動かすと痛いから、enterは親指で押せるどこかのキーに割り当てよう、とか。 そんなようなことができます。

これのなにがすごいかというと、自分好みのショートカット操作を無限に作れる、というところです。 例えばMacだとスクリーンショットは「command 」「shift」「4」の同時押しですが、このショートカットは親指と小指と人差し指を広げないといけないので地味に押しづらいですし、ブラインドタッチだと押し間違えることもあります。 この同時押しのキーを別のキーに割り当てることで、一発で呼び出すこともできたります。

つまり、「ショートカット」に合わせにいくのではなくて、自分が押しやすい都合の良いキーに「ショートカット」を当てることができる、ということです。

特にVScodeエディターなどは、ほとんどの操作がショートカットキーで設定できるので、とても便利です。

最後に、自作キーボードを使うことのメリットの三つ目は、肩こりや、腱鞘炎を軽減できる、ということです。

市販のキーボードのレイアウトだとどうしても、肩と腕を内側に寄せて、手首は外向きにする、という、負担の大きい姿勢になってしまうので、長時間タイピングし続ければ、身体に支障が及ぼすのは必然です。 一方、自作キーボードの場合、分割キーボードや縦ずれレイアウトのキーボードなどを選択することで、肩、腕、手首、を自然な体勢でタイピングできるので、身体への負担は大幅に軽減できます。

実際に僕も、一体型のキーボードから分割キーボードにすることで、一気に肩こりが改善されました。

もし、デスクワークでの肩こりや、腱鞘炎で悩んでいる方は、ぜひ自作キーボードを検討してみてください。

自作キーボードの始め方

自作キーボードは、キーボードの骨組みとなる制作キットと、お好みのキースイッチキーキャップを購入して組み立てる、という構成が一般的です。

キースイッチとは、キーボードの中で核となる存在といっても過言ではないパーツで、キーボードの打鍵音や打感をつかさどるパーツを示している。 軸の色により押した感触が変わることが多く、赤軸、青軸、緑軸という俗称で呼ばれ「どこそこ(メーカー名)の○○軸が〜」という感じで説明することが多い。

参考: “キーボード沼”への入口はキースイッチにあり “メカニカル”と“軸”を知ろう|Real Sound|リアルサウンド テック

キーキャップとは、キースイッチの軸にはめ込む樹脂製のパーツで、表面(キートップ)にはそのキーを押したときに入力される文字や記号が刻印されています。 キーキャップは材質や形状、表面仕上げなどに多くの違いがあり、本体の作りと共にキーボードの品質やその価値に大きな影響を与える非常に重要な部品です。

参考: キーキャップの一覧 FILCO取り扱いキーキャップ | ダイヤテック株式会社

自作というと、ハードルが高いかもしれませんが、実際には細かな制作工程の解説を製作者の方がGithubで公開してくれているので、思っているよりも簡単にできると思います。 とはいえ、はんだごてなど最低限の装備は必要になるので、まずはお試しでという方は、道具一式や製作室などを貸してくれる遊舎工房さんなどを利用いただくのもありです。 遊舎工房さんはキットや部品の取り扱い、サポート体勢がダントツなので、遊舎工房さんのサイトを見て気になるキーボードを選ぶというのはとても良い方法かと思います。

shop.yushakobo.jp

自作キーボードの魅力はわかったけど、作るのが面倒臭い!という方は、通販やメルカリなどで制作済みのキーボードが販売されているので、それらを買ってみるのもありだと思います。

まとめ

今回は、自作キーボードについて少しだけ語ってみました。 いかがでしたでしょうか?

自作キーボードはただの自己満足ではなくて、インターフェイスとしての利便性を追求した結果の一つの最適解でもあるんだ、というのが僕が最後に伝えたいことです。 この記事を読んでくださった方が、これを機に少しでも自作キーボードの世界に興味を持っていただければ嬉しいです。